今度の干支神戸人形「辰」はこれまでのものと違って箱にはのっていません。また、つまみを回したり、棒を引っ張ったりといった仕掛けでもありません。ふたつの車輪がついた、転がすスタイルのものになっています。
毎年、干支神戸人形のデザインには頭を悩ませますが、「赤い色の入った縁起のいいものにする」、「決まった値段(7700円)で販売する」、というのが前提条件になっています。
これに加えて、「十二支でいろいろな神戸人形の様式を一巡りしたい」、「別の郷土玩具の良さも拝借したい」という気持ちも芽生えてきています。
「戌」の時は台にのったオーソドックススタイル
「亥」は目が飛び出す動き
「子」は定番の酒呑み
「丑」は古いろくろっ首スタイル(宇和島の牛鬼風味)
「寅」はお化け箱スタイル
「卯」は古い餅つきウサギ神戸人形のリメイク版
今回の神戸人形は「車もの」…、こう呼んでいるのは私たちで、一般的な呼び方というわけではありませんが、なんとなく一般的っぽいので今後これで押し通したいと思います。
これまでの干支神戸人形は「亥」はちょっと変化球気味でしたけれど、概ね神戸人形の典型と言って差し障りのないかたちや動きのものでした。
それでいくと今回のは一見神戸人形なのかどうか怪しい感じがするでしょう。
でも、今回の「辰」みたいな車ものは戦前にたくさん作られたポピュラースタイルなのです。
例えばこんな人力車。三輪車ではないんですよ、これは。二人の首が伸び縮みします。車輪に穴がいくつもあいていますね、これが神戸人形の「車もの」の特徴です。
これは…、いや、これがなんなのかを一言で説明するのは難しいのですが、目玉や舌が出てきたり、上からもお化けが出たりする、いわば悪夢車ですねぇ。
これらの神戸人形に共通するのは、車輪でただ転がるのではなく、クランクによって往復運動を生み出し、目玉が飛び出したり、首が伸びたりと言った動きにしている部分です。
そのあたりの詳しい解説は拙著「神戸人形賛歌」をぜひご覧くださいね。…と広告をはさみまして、「辰」に戻りますが、「辰」も戦前の神戸人形と同じかたちのクランクで舌をベロベロ動かすようになっております。
さらに、こういう郷土玩具の良さ、素朴さを拝借し、神戸人形らしい機構を組み合わせて作ったのが干支神戸人形「辰」なのです。
なお、戦前多く作られた「車もの」ですが、クランクの部分が壊れやすく、健全なかたちで残っているものは珍しいです。
戦後も数岡雅敦氏により作られましたが、やはりクランク部分は故障しやすかった模様です。
そういったことを踏まえて、今回はクランクに樫の木を使用、車輪も小さめにして壊れにくくなるよう心がけていますが、なるべくやさしく遊んでくださいね。
(吉田太郎)
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